2014年5月12日

ピッツバーグ医療戦争

今、ピッツバーグ最大の医療機関と保険会社の争いが問題となっています。日本の医療制度では起こらないであろうこの争いを紹介しようと思います。両者は何億円も使って行政にロビー活動を行い、訴訟を起こしており、とばっちりを食らう市民の最大の関心事の一つになっています。

※背後にあるアメリカの医療保険制度についてはコチラをどうぞ。

UPMC

UPMC(University of Pittsburgh Medical Center/ピッツバーグ大学病院)は、この地方にたくさんの優れた医療機関をもっています。世界屈指の先端医療センターでり、医師や製薬会社の人など多くの日本人医療関係者がビッツバーグ大学やここに留学してきています。ピッツバーグ地域のほぼすべての医療機関が UPMC 傘下という、独占状態にあります。


実はピッツバーグにはいろいろな分野にモノポリー(独占)状態があります。これは、ピッツバーグ市民の地元愛からくるもののようで、アメフトなら「我らがスティーラーズ」、衣服ブランドといえば「我らがアメリカンイーグル」、スーパーマーケットといえば「ジャイアントイーグル」というように、地元企業を愛して応援するのですが、それが独占状態を作ってしまっているようです。


なお、UPMC は非営利団体であり、税金を免除されています。しかしながら、UPMC という箱の中の各医療機関や医師たちは営利団体です。とかくと、悪く聞こえるかもしれませんが、私を担当してくださっている UPMC のお医者さんもとてもよい先生です。


Highmark

ハイマークはピッツバーグを拠点にする医療保険の会社です。Highmark Blue Cross Blue Shield という保険プランをピッツバーグ地域に提供しています。Blue Cross Blue Shield Association (BCBS 協会 / ブルー・クロス・ブルー・シールド・アソシエーション) という協会に属しています。

この BCBS 協会は、37の医療保険の会社の連合体で、全米で 1 億人以上の人に医療保険を提供しています。もともとそれぞれの地域で保険を提供していた、テキサス州ダラス拠点の Blue Cross とカリフォルニア拠点の Blue Shield が、全米すべての州で保険を提供するために 1982 年に合併してできました。この BCBS 協会傘下で一番大きいものは、Anthem(アンセム)という会社で、14 州にまたがって保険を提供しています。

BCBS 協会のような保険ネットワークの連合は他に AETNA(エトナ、アテナ)や CIGNA(シグナ)といったものがあります。ですので「君の保険はどこの?」と聞かれたら「ブルークロス」とか「シグナ」などと答えるわけです。



ピッツバーグの UPMC vs Highmark 問題

さて、ピッツバーグにおいて、医療機関は UPMC で問題ありませんでした。ところが、UPMC が 1998年、独自に UPMC Health Plan という保険をスタートさせます。そして、Highmark との契約の更新更新において、強気な姿勢を見せ始めます。Highmark によると「UPMC が医療費を 40% 値上げすることを要求してきている」とのことです。そして、Highmark は対抗するように、2011年、West Penn Allegheny Health System(西ペンシルバニア・アレガニー保険システム)という、この地方で UPMC に次ぐ第二位の医療機関グループを、「この医療グループを助けるため」として傘下におさめ、さらに UPMC の医師を引き抜いていっています。UPMC にいる知人が「凄い金額のオファー」と言っていました。これに腹をたてた UPMC は、保険会社が医療機関を持つのは法律違反訴訟を起こします。確かに、保険会社が医療機関も持つのは利益が相反するので問題があります。今では、新聞やテレビの広告でお互いに非難しあっている泥沼の状態です。


Highmark の加入者にとって、これは当然大問題。自分の家族が UPMC で医療を受けられなくなる可能性があります。Highmark の FAQ ページには「Highmark と UPMC の契約は 2012 年 6 月末に切れるが、加入者は 2013年6月末まで UPMC を利用できる」と書いてありましたが、「引き続き In-network として利用できる」とはないため、out-network として追加料金を払わなくてはいけなくなる可能性があるというわけで不安になりました。2013 年 6 月に「両者は 2014 年末までの契約を更新した」と発表されましたが、UPMC は同時に「その後の更新は行わない予定である」と言っています。


医療保険を選択する年一回のタイミングは秋ですが、この頃に両者が契約更新しないとなると、困るわけですし、既に「UPMC でその保険は使えない」と言われ、Highmark に確認したら「使える」と異なった回答が返ってきたという人もいます。


人々は、ペンシルバニア州とピッツバーグ市はこの問題にもっと介入して良いはずだといっています。UMPC も Highmark も非営利団体なのであり、このいざこざにより市民が影響をうけることのないように、両者は解決の道を探るべきです。UPMC は非営利団体だからとして税金を免除されているのですし。

ピッツバーグ市は両者が関係を改善するように促していますが、UPMC はピッツバーグの最大の雇用者であるだけに強気です。UPMC は Highmark との契約交渉を拒否する一方、Aetna、CIGNA、HealthAmerica、United HealthCare といった他の保険会社とは契約を広げていっています。


※この話の続きを「ピッツバーグ医療戦争に関する同意判決」に書きました。

2014年5月8日

ペンシルバニア州の自動車保険と各項目について

アメリカの自動車保険の中の各項目について、一度きちんと理解しておこうと調べました。※あくまでの私の理解ですので、誤りがあっても責任は持てませんのでご了承ください。

保険の契約の中には、以下の項目があります。

賠償責任補償 (Liability Coverage)

対人および対物の補償。我々が事故を起こしてしまった際に、相手側の車と人に対する補償をする保険です。一番大切な保険で、必ず入らなくてはいけません。


Full Tort と Limited Tort

これがペンシルバニア州独特のものです。ペンシルバニア州では、車の保険契約の際に、このオプションを選ぶ必要があり、みんなが混乱しています。Tort とは辞書では「不法行為」のことですが、法律用語で「Civil wrongdoing」という意味だそうです。”Civil wrongdoing – in civil law, a wrongful act for which damages can be sought by the injured party.” 「民法において、被害者側によって不正に請求される損害賠償」といったところでしょうか。


過去に事故に起因する精神的苦痛(pain and suffer)を賠償しろという訴訟が増加し続けていました。賠償訴訟に対応する費用は保険料に跳ね返り、自動車保険料は高騰していました。このオプションは、これを食い止める目的でペンシルバニア州が作ったものです。


Full tort も Limited tort も、本人の過失に起因しない事故で、本人または同乗者が怪我をした際に適用される話です。Limited Tort でも、過失のある車の運転者に対し、医療費や損害といった実際に被害者が支払うことになった金銭については補償されますが、事故により被った痛みや苦痛については、支払いを求める訴訟を起こすことができません。これに対し、Full Tort では、医療費に加えて、苦痛に対する対価も求める事ができます。


保険を検討している時に、複数のサイトに「多くの人は、保険料を節約するために Limited Tort を選びますが、長い目で見るとどうでしょう。我々は Full Tort を強くお勧めします。」と語られているのですが、よく見ると多くは弁護士のサイトでした。彼らとしては、訴訟を起こす前から権利を放棄されてしまっていては商売あがったりですもんね。でもどうでしょう、我々が訴訟を起こしたりまでするでしょうか。というわけで、私は初めは鵜呑みにして Full Tort  にしましたが、後に Limited Tort に変えました。


この選択が人々を混乱させているのは、この「自分たちに対する補償」についての選択によって、対人・対物補償という「相手に与えてしまった場合の支払いに対処するための補償」の年間の保険料(Premium)が変わってくるからだと思います(下図の赤い矢印)。何についての保険なのかが、ごちゃごちゃになってくるのです。





無保険者保険 (Uninsured Motorist Coverage)

相手の過失による事故で、相手が無保険者であった場合(相手が無保険者である証明が必要)、こちら(運転者)及び同乗者の負傷に対する補償をしてくれる保険です。保険には必ず入らなくてはいけないので、相手が無保険という場合は少なそうです。次の保険不足者保険の方が大事そうです。


保険不足者保険 (Underinsured Motorist Coverage)

こう訳語をつけてみましたが、無保険者と似たもので、相手の過失による事故で、相手の保険が足りなかった場合に、こちらの負傷に対する補償をしてくれる保険です。実は保険料(Premium)が高騰していることもあり、かなり多くの人が、最低限の保険しかつけていないそうです。その場合の補償は、被害者一人あたり $15,000 (約150万円)程度。被害者となった時にこれしか補償されないのでは、問題なので、このオプションを付けておいたほうが良いわけです。


With Stack / Without Stack とは

ところで、無保険者保険・保険不足者保険には、Stacking(積み重ね)という条項があり、更に混乱させてくれます。これは「With Stacking(積み重ねる)」か「Without Stacking(積み重ねない)」を選択することになるのですが、複数の車を所有して一つの保険契約に入れている場合で事故に遭った時に、それぞれの無保険車保険の補償を積み重ねて請求できるようにしておくか、この権利を放棄するかというものです。放棄すると請求できる金額は少なくなりますが、当然年間の支払い保険料(Premium)は安くなります。


契約書類上は、「REJECTION OF STACKED UNINSURED AND UNDERINSURED MOTORIST COVERAGE LIMIT」すなわち「無保険者保険の補償の積み重ねの拒否に関して」という書類にサインする(放棄する=Without Stacking)か、しないかという手続きにでした。

なお、複数の車を所有する場合にのみ関係してくるものなので、一台のみの場合は、通常自動的に「Without Stack」になります。

私は Stacking を選びました。車を 2 台所有する際の保険料は倍というわけではなく、二台目はかなり割り引かれるので、Stacking にしても大した保険料にはないからです。


支払う
年間保険料
補償の請求
例)2 台各々に「1 人 10 万ドル 1 事故 30 万ドルまで」を設定した場合
With Stacking

高い
◎ 複数の車の保険を積み重ねて請求可
1 人 20 万ドル 1 事故 60 万ドルまで
Without Stacking

安い
▲ 1台分に設定した補償しか請求できない
1 人 10 万ドル 1 事故 30 万ドルまで


車両保険 (Comprehensive Coverage and Collision Coverage)

自分の車への損害に対する補償です。
  • Comprehensive は、盗難・火災等による車への損害に対する補償。
  • Collision は、自損事故による車への損害に対する補償。
自己負担額(=免責額=Deductible)の設定があり、この金額までは、まず自腹で払わなくてはいけません。それを超えた修理費を保険がカバーしくれます。つまり、自己負担額が $500 で、$1,500 の修理費がかかった場合には、自分で $500 を支払い、保険会社が $1000 を払ってくれます。

というわけで、自己負担額(=免責額=Deductible)を大きく設定するほど、当然毎年支払う保険料(Premium)は安くすみます。事故に遭った時の自腹が多いので。


その他、車両保険に付随するオプション

  • Towing and Labor: レッカーが必要になった場合の費用を出してくれる。
  • Roadside Assistance: ロードアシスタンスサービス。私の保険には「24時間の全米及びカナダ、ただしニューヨークを含まない」とありました。
  • Extended Transportation Expenses Coverage: 事故によって車が修理に出ている間のレンタカー費用などを補填してくれる。点検での修理工場入りは含まない。
  • New Car Replacement Coverage: 車両保険でカバーされるのはその時のその車の価値分であり、中古価格です。全損により新車を購入する必要が出た場合に、その差を埋めてくれるのがこのオプションです。

人気の記事